| 日本語の
不思議な言い回しのホント意味 |
||
| コンテンツ左 |
２３）いねむり＜ゐねむり＞（居眠り）」
どういう事なのかあまり解説がないねー。年寄りが新聞手にして眠り込んでいると「おじいちゃん！そ
んなとこで居眠りすると身体に悪いよ！」なんて言う。電車の席や会議の席で寝込んじゃているのを「居
眠りしてらー」などと云うけど、かわいい赤ン坊が母親の背中におんぶされて寝ているのを見て「赤ン坊
が居眠りしてらー」とは言わない。うーん、考えてみると「いねむり」ってのはなんのこっちゃ？
これを理解するには「ねる（寝る）」って言葉の意味を考えなくてはならない
「ねる」と云うのは「水平状に、横になる、展開する」ことを意味すると思ってた。だけれど、これだっ
たら「横になる」と云う言い方がある。寝るときに横にならない動物もいる。身近では「馬」。
「鳥」も膝は曲げるけど横にはならない。でも、「とりがねぐらに帰る」と寝る場所を「ねぐら」と云う。
「うーん」と詰んでしまったところで、ヒントは無いかと辞書（新明解古語辞典）を開いて眺めていたら
「ねまる」と云う言葉がこちらを睨んでいる。現代語ではあまり用いない。言葉の成り立ちから言うと
「ね」が「まる」、すなわち「場所ないし時間を占める」もしくは「シーン、情景を醸す」と云う意味だ。
「まる」と云う言葉の要素としてこれまでに何度か紹介してある。で、辞書には「ねまる」、
「� �くつろいで）座る�∧辛�する、ひれ伏す」とある。そいや「ねんごろ」と云う言葉もあった。
「ねぐ」と云う言葉もある。今風に言うと「ねぎらう」。
総合して考えるに、「ね」は「心穏やかな様」を意味する語彙要素なのではないかと言える。
そいや、言葉不十分な幼児は母親や周りに知った人に声をかけるとき「なー」とか「ねー」と云う声を出
す。我々も、親愛をこめて言うとき、「そうだよねー」と使う。心なごむ表現。
こんなこと考えていると、「ねる」と云うのは「くつろいで、おだやかにしている」ことを意味するんじゃ
ないかと云う結論に至る。「うーん、そうは言うけど、少し考えすぎじゃないか？」と気になる。
ところがだ、そう思った瞬間、大変な事に気が付く。
普段使ってないけれど、万葉集の歌には現代語人からみると不思議な表現が使われている。
「いのねらえぬ」と云う表現がある（万３６６５ほか）。新明解古語辞典では「い」は「寝」をあて、
「ねること」とある。「更級日記」の文中にも同じ表現が出てくる。じゃ、「い」は何を意味するんじゃ？
他の辞書を見ると「強調をいみする」何て出てくる。ミーんな、その場しのぎの説明。
ホントの意味（原義）は言葉の成り立ちを考えればすぐわかる。
「い」：万葉仮名では「伊」と書いた。「夢まくら」の解説のとこに書いたけど、「こころ」を意味する。
身近な例では
いも：こころよせたおんなのひと。現代語では「妹」になっている。
いろ：こころにかんずるもの。転じて「色彩」を意味するようになっている。
「わがいろはうつりにけりな・・・」＝「思っていることはついつい顔に出ちゃう」
「いろはにほへどちりぬるを・・・」＝「わが思いは顔に出て、・・・」
「わがいろせ」、「わがいろも」（現代語では「おれのいろ」：俺の愛人）
いめ：現代語＝ゆめ。こころ（い）がえがく（め）もの。フロイト先生顔負けの原日本人の洞察。
いかめしい、いつくしまじんじゃ、いたけだけ、いさかい、・・・数え切れないほどたくさんあります。
ここの例では「い」は人間の心意気、生命活動を意味しているのです。そもそも「い」と云うのは
人間の安静時の呼吸音「い（ひい）」の擬音語で、「いきる（生きる）」、「いきする（息する）」など
たくさんの言葉の源になっているのです。
例を挙げるとね、「い」がないことは「いぬ」です。「いんでしもうた」は「息がない」ことを意味
するのです。この「いぬ」に漢字「死」を充てたのが、読みかえられて「死ぬ」、「死んでしもうた」
に置き換えられたってわけ。
ということで、万葉集の歌の「いのねらえぬ」は「（しんぱいで）こころやすまらない」と云う事が
わかるのです。自分の夫が都の衛士（皇居警備員）として出仕した若い奥さんが、都でどうして
いるのか心配で心穏やかでないことを同じ表現で歌にしてます。著名辞書の解釈も多数の
誤解があるので気をつけましょう（自分でよく考え、吟味してからその説を受け入れましょう）
だいぶ脱線したけど、初めのところで解説したけど、おわかりかな？
「いねむり」てーのは、「くつろいで、おやすみになっている」と云う事ですね。
幼い幼児の場合は、いつも心配せず寝ているので「居眠り」とは言わないんでしょう。
さらに付け加えるなら、かっては「いねふる」と云ったのが「いねむる、いねむり」に変化したとだそ
うです。（前記辞書参照方）「ふる」は外観を意味します。「ふりをする」に例があります。
元々は、心穏やかにしている様を「いねふる」と表し、これが「いねむる」→「いねむり」と変化して
きたというわけ。
参考：ねる（練る）」とはアクセントが異なり、意味も違う。
以上
|
コンテンツ右 |